「フィガロの結婚」Wiener StaatsOper 2012.10.10

この時、ウィーン国立歌劇場は日本公演中であった。ある意味留守番公演である。下のキャスト表のうち、*を打ったのが、ここで歌うのは初めて、という顔ぶれであり、そうではない歌手はたった三人しかいない。伯爵と伯爵夫人、シュザンナとフィガロ、ケルビーノとマルチェリーナ、全員が、シュタッツオパー・デビュー。

演出はルネ・ジャコブスの振ったDVDで見ることの出来る演出そのままであり、十七世紀の静物画をぶら下げてそれを上げたり下げたりで舞台を変えていく。ピエトロ・スパニョリの伯爵役もまたそのままだ。可能な限り引き摺られないように努力しながら見たのだが、とは言えあの、元気なシュザンナと輪を掛けて元気一杯な伯爵夫人という舞台はある種の傑作であり、やはりちょっと期待してしまうのである——まあ、伯爵夫人が歌いながら片足ケンケンは多分してくれないだろうとは思ったけど (JacobsのFigaro —  http://youtu.be/7FW3-ammJrE –片足けんけんは6:00辺り)。で、第一の問題はこの伯爵夫人役のオルガ・ベシュメルタ(と読むと思うんだけどね)なのであった。

うん、すんごい声。猛烈にドラマチック ( http://youtu.be/Ij-flJFaunE )。

ただしそこが最大の問題なのであった。いやそこでそんなメロドラマ的な声出されたって、と言うか。しかも芝居がまた微妙に臭い。ところで、ジャコブス/マルティノティの録画をご覧になった方ならお判りだろうと思うけど、この演出は全然メロドラマ向けではない。むしろロマコメであり、勿論そこのところを時間でも止まったようにしっとりリリックに聞かせてくれる歌手もいて(ジャコブスの伯爵夫人は全然そういうタイプではない。泣きべそかいたけどもう大丈夫、あたし頑張る、みたいな元気いっぱいの伯爵夫人である)、更にそこと微妙な愛すべき狡さ・図々しさがシームレスに繋がってるとなおいいんだが、これはもう全然そういうものではない。そこでこの椿姫ばりの「ヒロイン」の「悲劇」が浮きに浮きまくるとどうなるかというと、ジャコブス版の方にあったような軽快な色彩が全部どんより濁ってしまうんである。

更なる問題はというと、まあ歌手も劇場に不慣れなのか、それとも前から三列目などという私にとっては前代未聞の場所で聞くとそんな具合になるのか(その可能性はある、という話は後でする)、そういうのを超越した問題であるのか、オーケストラと舞台上の歌がずれまくる。こんなの初めてだよ。特に非道いのはフィガロ役のマルクス・ヴェルバで、第二幕の終りで延々と「走って」くれたのであった。あの四重唱から六重唱、七重歌唱へと展開していく肝心なところでだよ。で、何かどこまで行っても合ってない。オケより先に行っちゃう。他のところでも。一体どっちが悪いんだ? 歌手か、指揮者か。指揮者も若いからその可能性もある。でもあの早口言葉級の速度には合わせられんだろ、普通。

という訳で、スパニョリ君もいまいち冴えず(あのメロドラマ演技にもフィガロ君の暴走にも付き合う努力はしてたけど、それでどうにかできるようなものではない)、牡山羊雌山羊はカット、ロバの皮もカット、という今一つ切ない舞台なのであった。収穫はといえば、三列目ともなるとオーケストラボックスの中まで物凄くよく見える、という点くらいだろう。左側だったので、ヴァイオリン奏者たちの動作がよく見え、弓の張り加減もよく見え、物凄く勉強になった。と言って、すぐ反映できるかというと、そういうことはありません。

Dirigent: Jérémie Rhorer
Regie:Jean-Louis Martinoty

Conte d’Almaviva: Pietoro Spagnoli*
Contessa d’Almaviva: Olga Bezsmertna*
Susanna:Miah Persson*
Figaro: Markus Werba*
Cherbino Lena Belkina*
Marchellina: Monika Bohinec*
Don Basilio: Norbert Ernst
Don Curzio: Thomas Ebenstein*
Antonio: Maurice Pelz
Barbarina: Victoria Varga